土壁研究 -ぼくのべと修行 8ページ目-生活と土壁②
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ではでは、ようやくネコヅタという名前の話を。
ネコヅタの「ねこ」とは、これのことです。
板床の上に敷く、稲わらで編んだ大型の筵(むしろ)のようなもの。
小坂商会のまさこさん曰く、
「あんちゃんたちは若いからみたことないかもしれねぇけど、
昔は冬場にどの農家でも編んでたんだよー」
とのことです。
写真の「ねこ」は、文化財である松代の真田邸、旧横田家で見つけました。
厚みが1.5cmぐらいあって、なかなか踏み心地がいい感じでした。
ネコヅタとは、もともとは古くなったねこを、
短く刻んでばらばらにしたもののことをさしたそうです。
実は、壁土に使うスサはかつては、
古くなった、わら縄だったり、下駄の鼻緒だったり、畳の中身だったり、むしろだったり…etc
生活の中で元の役目を終えたモノたちの「始末」、再利用によるものでした。
だから中塗り土に入れるスサの名前は、
そのモノの名前が残って「ネコヅタ」と呼ばれています。
ものを最後まで使い切る「始末」。
それが家づくりにまで及んでいただなんて、ちょっとした驚きでした。
家の中の暮らしのものを最後まで使い切る。
そしてそれを再び家づくりに用いる。
昔ながらの土壁の家は、暮らしづくりと家づくりが循環する、
そんな素敵な仕組みになっていたようです。
しかし今ではねこを編む家庭はありません。
そこで小坂商会さんでは、このような機械を使って、
稲わらを細かく裂いて、
中塗り土のスサ、ネコヅタとしてつかっています。
お米を取った後の稲わらが、
「ねこ」として暮らしの中では使われる過程を経ずに、
そのまま壁土になっています。
正直どこかちょっと残念な気もします。
そんな残念さを生んでいるのは、
私たちのライフスタイルの変化によるもののように思います。
お茶殻の始末にしたって、畳のある暮らしでないと、できないし、
とぎ汁の始末にしたって、無垢の板の床でないと効果は薄くなります。
大量生産大量消費で暮らしの時間が加速し、家づくりも変化してきた中で、
日本人がかつて大事にしていたはずのものを失っているのかもしてません。
かつては「始末」をとおして大切にされていたはずの日本の暮らし。
そして土壁をとおして循環していた暮らしと家づくり。
土壁の家づくりを見直すことで、いろいろな大切なことたちをもう一度、
見つけてあげることができるのかもしれませんね。
そんなことも考えながら壁土修行を続けたいと思います。
動物のネコには嫌われがちな、工事部の漆戸航でした。