ほとりの家
長野県御代田町
終わりのない家づくり。絵を描くように少しづつ、
色味をおくようにお庭も暮らしも作っていく。
軽井沢の隣、御代田町に建つ18坪の平屋。
軽井沢の森でガイドをされている奥様と、土に近い暮らしを望まれた旦那様の二人暮らし。自分たちで畑や庭をつくり、薪小屋も建てました。家の中は身近な草花の種や、木の実が優しく暮らしを彩ります。自然の恵みに感謝しながら、季節を感じて穏やかに暮らす。
この春で6年目に入る「ほとりの家」にお邪魔しました。
池のほとりを取りまく木々、草花、生き物。
ゆるやかに変化する四季を感じて暮らす。
駅近くの住宅街の一角。 隣り合う家の間の細い道を少し入っていくと、突然開けた景色が目に飛び込んで来ました。見下ろすと大きな池。そのほとりに積み上げられたちょっと小高い石段の敷地。そこはまるで岬のようにそこだけ、ぽつりとせり出した場所に「ほとりの家」はあります。季節ごとに山菜や木の実が豊かに実ります。
「春には、ヨモギやクレソンにセリが採れます。夏には桑の実、秋には栗を拾って渋皮煮も作ります。春先は、特に畑の野菜も寂しい時期。ここの草花が食卓に並ぶことも少なくないんですよ」
お仕事は森のガイドをされている奥様。
草木に詳しい知識は勿論ですが、奥さまが小さい頃には、そのお母さまが散歩中に摘んだ草花を、よく食事に出してくれたのが大元になっているんだとか。
「春の野に咲く、ピンクや白の花をつけるハルジオン。子どもの頃、そのハルジオンのマヨネーズ和えのことを作文に書くと、みんなが驚いていたことから、これは珍しいことなんだと思いました(笑)」
そんな微笑ましいエピソードを教えてくれた奥様。
その頃から、今のお仕事、そして暮らし方の根っこが育っていたんだと思いました。
庭は自然に生えていたものを活かして。作りこみすぎないように。
デッキから望むお庭には自然に生えてきた草花と植えられた植物が仲良く共生している様子が伺えました。「土地に合ったもの、ここの気候に合うものを選んで植物を植えています」
庭の小道は木の皮や建築時の廃材の板を並べた手づくり。二人分の野菜が収穫できる丁度いい広さの畑にコンポスト。小道の足元には真っ赤な苺が丁度食べごろをむかえていました。
お庭で摘んだ苺とミントに、池のほとりの桑の木からも実をいただいて、その場でジャムを作り早速振る舞って下さいました。
あえて収納は作りませんでした。
道具やものが見えてることで、逆に適度な緊張感があることが、
気持ちよく綺麗にできるのかもしれません。
工夫たっぷりにご愛用の道具たちが並ぶ使いこまれたキッチン。 引き出しはあえてつくらず、ワイン箱を再利用。木の棚には、様々な干物類や手作りの果実酒がずらりと並びます。
普段なら目にとめることも少ない、名もない草花も、小さなビンにそっと生けられたら、ちょっと素敵なメリーゴーランドみたい。
「キッチンの引き出しもそうですが、家全体にも収納庫や押入れといった場所はあえて設けませんでした。」
お部屋の中の棚やちょっとしたスペースを上手に使って整然と、でも柔らかく並んだ本や小物、家財道具、草花・・・
そこには見せるもの、使うもの、きれいなもの、そうでないもの、という区別はなく、すべてのものを同じように愛でるお施主ご夫妻の人柄が伺えました。
「ものをしまってしまうより見せている方が、いつも適度な緊張感があって、なんとなく綺麗でいられるような気がします。」
小さいけど、お二人の生き方が伺える住まいと庭。
「子どもの頃から思い描いていた世界があって・・・絵を描くように少しずつ作り上げてきました。ここにこんな色が欲しいな。ここにこんな表情をつけたいな。家づくりもそんな世界をつくるための一つのこと。庭に畑をつくるのと一緒。 でも自分では建てられないから大工さんにお任せしましたけど」
そういって微笑む奥様。
家を建てる時も存分に楽しんでおられたのが伺える、手作りのアルバムも見せて下さいました。家の柱も自分たちで伐採してみたいと、東北の山まで足を延ばし、その後、伐採された木が製材所で柱にされる様子も見学されました。
外壁も自分たちでウッドロングエコを塗り、家ができるまでの時間を、心から味わって下さったお二人。
家を建てる前も、そして建てて6年目を迎えた今も、お二人の家づくり庭づくりは終わりません。
「自分の好きなように、どうとでもできる場所があるって幸せだよね。そうそう。近々DEFさんでこんな板とか残材で出ませんか?ちょっと作りたいものがあって〜。」と旦那様。 奥様も、これから敷地の石垣を整備して、月見台や段々畑を作りたいんだとか。
そんなお二人の生き方が詰まった「ほとりの家」。
そこにはすごく素敵な世界が広がっていました。でもそれは、お施主ご夫妻にとっては特別なことではなく、他の誰かに見せるためのものではない、ご夫妻で思い描いたご夫妻のための工夫や手間、そして暮らしそのもの。
こんな風には無理だけど、自分たちでできる工夫やひと手間かけた暮らしは、毎日がもっと豊かになりそう。憧れとともに、これからの暮らし方、生き方に夢を与えられた「ほとりの家」なのでした。 まるで終わりのない絵を描くように、小さな「ほとりの家」はお二人の大きなキャンバスになったように見えました。