yatsugatake
竹を使わなくなった理由とは?
- Series

- なんくる
- 八ヶ岳営業所
かつての日本では、竹は生活のあらゆる場面で重宝されてきました。竹かご、ざる、箒、竹垣、箸、花器などの生活用品に始まり、建築資材や農具、さらには楽器に至るまで、竹は自然素材として極めて身近な存在でした。竹はそのしなやかさや強度、再生可能性といった特性から、人々の暮らしに調和する素材として長く愛されてきたのです。
しかし、時代の変化とともに、竹製品を目にする機会は急激に減少しました。現代の生活の中で、竹が使われなくなった背景には何があるのでしょうか?
プラスチックの普及がもたらした変化
1950年代後半から、高度経済成長とともに日本国内でもプラスチック製品の使用が急速に広まりました。プラスチックは軽量で耐久性があり、さらに水に強く、加工のしやすさとコストの低さから大量生産が可能でした。その結果、かつて竹が果たしていたさまざまな役割──日用品や包装材、農業用具など──は次々とプラスチックに置き換えられていきました。
特に家庭用品の分野では、竹製のざるやかごの代わりにプラスチック製のバスケットや収納ケースが登場し、その利便性と安価さから急速に普及。自然素材よりも“手間がかからない”“長持ちする”という点が重視されるようになったのです。
竹材・タケノコの輸入増加
加えて、1970年代以降、竹材やタケノコといった竹に関する商品が、中国や東南アジアをはじめとした諸外国から安価に輸入されるようになりました。これにより、日本国内の竹産業は深刻な打撃を受けます。
地域の職人や生産者は、安価な輸入品との価格競争にさらされ、伝統的な技術や手入れの行き届いた竹林の維持が困難となっていきました。竹の伐採や整備にかかる手間や費用に見合う収益が得られなくなったことで、次第に人々の手は竹林から遠のき、管理されないまま放置される“放置竹林”が各地で急増。
その結果、竹林は周囲の森林を侵食するなど、新たな環境問題を引き起こすようになったのです。
竹を見直す時代へ
しかし、近年になって竹に再び注目が集まっています。その背景には、地球環境への意識の高まりや、持続可能な資源を見直す動きがあります。竹は驚異的なスピードで成長し、数年で収穫可能になるという特性を持つため、環境負荷の少ない素材として世界的にも注目されています。
さらに、自然素材ならではの温もりや美しさ、そして職人技が光る手仕事の価値が見直される中で、「竹のある暮らし」は新たなライフスタイルとして再評価されつつあります。最近では、竹製の歯ブラシや食器、ファッション雑貨、さらにはエコ素材として建築やインテリアにも活用されるようになりました。
「使わなくなった」のではなく、「使いづらくなっていた」だけの竹。 その背景を知ることは、未来の暮らしを見つめ直すきっかけにもなります。
おわりに
私たちが竹を使わなくなった背景には、単なる素材の好みや時代の流行だけでなく、技術の進歩や経済構造の変化、そしてグローバルな流通の影響が大きく関わっています。
しかし、その流れを知ることは、未来の選択に意味を持たせる第一歩になります。
竹は私たちの祖先が培ってきた「自然と共に生きる知恵」の象徴でもあります。その価値を、もう一度見つめ直し、暮らしの中に取り戻していくこと。それは単なる懐古主義ではなく、地球や人とのつながりを大切にする選択なのかもしれません。
「竹を使う暮らし」とは、自然との調和、そして人と人とのつながりを育む豊かさの象徴。 それを現代の私たちの暮らしの中でどう再構築していくのか──今こそ考えるときです。