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「八ヶ岳移住レポート」土を食べる、作り手と繋がる。暮らすことは、食べること

暮らしのこと
見たこと・感じたこと
2024.5.31
2024.5.31

10年前、幾つかのタイミングと運命的な出会いに背中を押された私は、都内での会社勤めを辞め、夫と二人で信州 八ヶ岳山麓の村に移住しました。今となっては窓の景色や風の匂い、野鳥の訪れに季節を感じる毎日ですが、移住前はコンクリートジャングルの中で五感を閉ざす生活。

当時住んでいたマンションから地下鉄の最寄り駅まで歩けば、後は地下伝いに出勤。一年中窓が閉まっているオフィスビルでは、自然を感じる余裕なんて皆無に近い生活でした。

そんな私達が、初心者マークを付けた中古のジムニーで八ヶ岳に移住し、これまでと暮らしはどう変わったのか。この地に暮らすことで得られた気づきや発見と共にご紹介したいと思います。今回のテーマは「食と買い物」。


この記事を書いた人:「中吉の家」住人 なかもりちあき

2014年、大好きな山に近い暮らしに憧れて、夫と二人東京から長野県諏訪郡原村へ移住。2年間の賃貸暮らしを経て、林の中に400坪の土地を購入。2016年にアトリエデフで暮らしの棲み家を建てる。薪を割り、野趣あふれる庭と格闘しながら、自然暮らしと子育てを満喫中。

Instagram @nakayoshi.no.ie


作って食べる、は暮らしの真ん中に

東京にいた頃、私にとって料理は日常ではなかった、と今になって思います。夫婦で共働きだったこともあり、平日は兎にも角にも仕事が最優先。外食も多くコンビニごはんも日常茶飯事でした。自炊は休日が主で、必要な材料を買い出すことから始まる。その日に台所にある野菜や冷蔵庫にある食材を眺めて、夜の献立を決める今の暮らしとは大きく違っていました。

まず原村に越してきて外食機会は減りました。休日ランチに出かけることはあっても、夕食をお店で食べる機会は年に数えるほどのレベル。交際費も大幅縮小で家計には大助かりです。どこの飲食店へ行くにも車で2,30分はかかるし、コンビニはわざわざ行く場所にしかない。何よりお月様が輝けば、外灯以上に明るく感じる大自然。仕事終わりは自ずと家路に向かうようになった気がします。

東京にいた頃とは働き方が変わったこともありますが、私にとって「作って食べること」は自然な流れで暮らしの中心へと変化していきました。

豊かな自然と作る人の手が、食卓をつくる

他の地域と同様、近隣のスーパーでは一年を通して日本各地の食材が揃いますが、近所の産直市場では、季節になれば朝採れの地場野菜が手に入ります。八ヶ岳の冬は大変厳しく畑が凍って作物が育ちませんので、これは季節限定のお楽しみ。最近では有機農家の友人ができ、宅配野菜を頼むようになりました。彼らがつくる野菜は本当に美味しく、畑に遊びに行ったり一緒に田植えをしたりと、土を介して多様な楽しみが生まれています。

地元のスーパーには肉や卵、大豆製品、乳製品、米粉や小麦なども県内産のものが並んでおり、少し意識をするだけで地産地消ができます。この辺りにはお豆腐屋さんも何軒かあり、スーパーなどでも扱っているのも嬉しいところ。


「FUUSHIKAorganic」さんより週に一度届く宅配野菜。無肥料無農薬で育てられた野菜達は命のエネルギーそのもの。

移住前後で自分を取り巻く食の環境はどう変わったか。

一言でいえば農家さんなど「食の作り手が近い」ことに尽きるかなと思います。それは物理的な距離だけではなく「作り手の方も、自分と同じ季節の中で暮らしている」という仲間意識のようなもの。東京でも地域や暮らし方によっては当たり前のことかもしれませんが、私にとっては原村に暮らして初めて得た鮮やかな感覚でした。私が立っている大地の先で、同じように朝が来て、農家さんは作物を育てている。

同じ空気を吸い、パンやお酒を発酵させる職人さんがいる。私の食卓は、この大好きな自然とたくさんの人の手と地続きに繋がることで成り立っている。そんなことが無意識のうちに染みていくと、何かを選ぶ時、例えば卵一パック、ジャム一瓶でも、その先の自然や人に思いを巡らせることも多くなりました。


「しのはら園芸」さんのとうもろこしは夏のご馳走。時期になったら朝採れを買いに行き、すぐに蒸して頂きます。

手から手へ、直接触れられる楽しさ

移住前はあまり意識していませんでしたが、八ヶ岳界隈にはレストランの他、パン屋さんやお菓子屋さん、カフェなど店主のこだわりが際立った素敵なお店が数多くあることに気が付きました。馴染みのお店に行けば自然とおしゃべりが生まれ、作り手の方から直接お料理を出してもらったり、商品についてお話を聞きながら受け取ったりする楽しみがあります。

都内ではお店の規模が大きかったり人気店はいつも混んでいたりと、作り手の方と直接交流する機会はそうそうありませんでした。大切に作られたお料理を親しみいただくこと、和やかな買い物の楽しみが日常にあること。これもまた、移住することでより深く楽しめるようになったことです。


店先では自然な流れでお客さん同士の会話も生まれ、新たな出会いに繋がることも。朝起きるのが楽しみになるパン屋さん「カルパ」にて。

私自身も、何かと手作りすることが楽しくなっています。春は庭で山菜を採り、梅雨頃には梅仕事。夏は雑草の勢いに圧倒されながらも家庭菜園で野菜を収穫。秋は近所に栗拾いに行ったり、柿をもぎって軒下で干し柿を作ったり。冬前は野沢菜を漬けて、春が近づいたら味噌づくり…。書き出してみると何やら忙しない一年ですが、家族と一緒に季節の訪れを楽しむ大切なひと時になっています。

季節になればスーパーの入り口に保存容器や材料が並ぶように、信州には手作りの食文化が根付いており、誰でも手軽に取り組める環境があります。我が家の味噌づくりも今年で8年目。毎年変わる味噌の味や、仕込みの日の風景と家族の成長を楽しむ、早春の風物詩になりました。もう手前味噌のない生活は考えられません。

都会の便利さに埋もれていた私でも、住む場所と暮らしが変わることで、いつのまにか食卓の風景や楽しみ方も変わっていきました。八ヶ岳に移住して変わった暮らしのあれこれ、次は何を書こうかな。宜しければ、次回もぜひお楽しみに。

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