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移住者インタビュー・髙橋様「お日様の光をたっぷり浴びて、動物も植物も共に暮らし育つ場所」

移住者インタビュー
2024.1.25
2024.1.25

車を降りるとお揃いのアウトドアエプロン姿で出迎えてくれたのは髙橋陽太さん、夏子さん夫妻。火ばさみを片手に持ち「どうぞ」と案内してくれたのは、リビングではなく家の南斜面に奥深く広がる庭です。森の中にぽっかりと開いた陽だまりのようなその空間には、お日様がたっぶりと降り注ぎ、清々しい風がススキを揺らします。初めての本格的なDIYで製作したという薪小屋やピザ窯小屋が誇らしげに佇み、焚火にかけられた鍋では陽太さん特製のスープがコトコト煮えています。

「友達が遊びに来た時は、暗くなるまでここでピザパーティです。生地はYouTubeで調べたのを何回も作って改良して、トッピングも回を重ねる内に我が家の定番が出来てきました」

香ばしい薫りに誘われて、二人の暮らしにお邪魔しました。

プロフィール
髙橋陽太さん(28) / 東京都出身、2019年山梨へ移住
髙橋夏子さん(27) / 東京都出身、2019年山梨へ移住

将来の夢は里山暮らし。Iターン就職で山梨へ

「山々に囲まれた場所で、季節に寄り添う暮らしをする。中学生の頃からの私の夢でした」と話し始めたのは夏子さん。小さな頃から森林ボランティアに参加するなど、自然と触れ合うことが好きだった夏子さんは、今の暮らしへと繋がる確かな思いを温めていました。地方で役立つ知識をと森林を学べる大学へ進学、そこで出会ったのが陽太さんでした。

一方の陽太さんは、少年の頃から今に至るまで大の虫好き・生き物好き。さらに物心ついた頃から見ていた『DASH村』(TV番組)の影響で、子どもの頃から半自給自足の暮らしに憧れていました。

「食べ物の自給だけでなく家や道具の修繕など、日常生活で起きる問題を自分の手で解決できる人ってかっこいいなと。ここに住んで初めてやってみたDIYもその憧れからです」

夏子さんは在学中から地方移住を目指して各地を訪問。その中で富士山、南アルプス、八ヶ岳と名立たる峰々を見渡せる山梨県北杜市に辿り着きます。

「広い空と雄大な山々に囲まれた暮らしは、どんなに豊かだろう。想像しただけで胸が躍りました。家族や友人が暮らす東京との距離感にも無理がなく、暮らすならここしかない。当時付き合っていた彼(陽太さん)を泣きながら説得したのをよく覚えています。卒業後すぐに移住できるよう、山梨県での就活を決めました」

行政主催の移住イベントや就活セミナーに参加するだけでなく、そこで声をかけ繋がった方が紹介してくれた人に会いに行くなど、東京にいるうちから積極的に人脈づくりに励んだという二人。現地の情報を取り入れながら準備を重ね、大学卒業と同時にIターン就職で山梨県韮崎市へ移住しました。好きだった山登りや里山歩きもぐっと身近になり、興味のあった狩猟免許も二人で取得。四季折々の山と空に囲まれて、これからの暮らしに憧れを募らせていきました。

畑にピザ窯、にわとりに竪穴式住居。これからの暮らしを描く

現在暮らす「明野」地区との出会いについて聞くと、


「田畑が広がる場所に立った時、まるで南アルプスから八ヶ岳がひとつの連峰のように連なって見えて。その景色を前に、ここだ!と直感しました。明野地区の猟友会にも入って繋がりが出来ていたこと、雪の量が少ないことや市街地との距離感など将来的な生活面での安心もあり、いつか明野で暮らすことが二人の夢になりました」と話します。

話を聞きながら、夏子さんが見せてくれた1枚の絵。そこには現在進行形で形作られている暮らしの原点が描かれていました。

「山梨での生活に慣れてきた頃、これから二人でどんな暮らしがしたいのか、わくわくしながら描いた絵です。庭にはピザ窯や畑があって、にわとりも一緒に暮らしたい。梅の木を植えて梅干しや梅酒を漬けたり。縄文時代が好きなので、竪穴式住居も作ってみたいとか。こんな暮らしをするためにまずは土地と家が必要だねと、土地探しから始めることに」

描いた暮らしの地図を片手に不動産屋さんを何件も回り、巡り合ったのが、当時はまだ販売前のこの土地でした。日当たりは抜群、家を建てたら富士山も南アルプスも見える。イメージ以上の場所で気持ちが高まったという二人。翌日にはこの土地を舞台に再び絵を描いた夏子さん。ノートの上で、これからの暮らしが鮮やかに息づいていくのが見えました。

「すぐに新しい絵を不動産屋さんに渡して、地主さんに見せていただけるようお願いしました。大事にされてきたこの土地で私達はこんな暮らしがしたい。ここに在る自然と共に成長していきたいことを伝えたかった」と夏子さん。その絵を見た地主さんは二人の希望を受け入れて土地の売却を決め、今でも二人のことを応援してくれているそうです。

「小さい頃から、未来を想像するのが好きでした。理想をイメージして、その為に今何をしたらよいのか考える。それを言葉や絵にして誰かにアウトプットすることで、助けてくれる方がいたり、期待が心地よいプレッシャーに変わったり。幸いここに来てから、私たちにはない経験や特技を持った方々との出会いに恵まれるので、そうした方々の力を分けてもらいながら、まわりを巻き込んで成長していきたい」と夏子さん。

心に残った「森の中にいるような温かさ」

「まるで森の中にいるような温かな感じが、家に帰ってからもずっと心に在りました」と、初めてアトリエDEFの家を見学した時のことを振り返る夏子さん。紆余曲折を経てアトリエDEFの家に決めたのは、その時の情感がずっと心にあったから、と話します。

住み始めてからも、本物の木の心地よさを感じているという二人。「入居してすぐと今では木の表情が全然違う。床も外壁も自分達と一緒に成長していっていると思うと嬉しいです」と陽太さん。明野に越してきて一番懸念していた夏の暑さと冬の寒さについても、1年を通して快適に過ごせているとのこと。

「夏と冬で家の中に届く日射が全く異なっていて、それも設計に含まれていることを知りました。夏は縁側まで届くけど家の中には入らない。逆に冬は北側のキッチンまでぽかぽか陽が入ります。薪ストーブを付ければ家全体を温めてくれます。エアコンではそれは叶わない。薪ストーブと土壁、無垢の木の相性を感じます」と陽太さん。

四季は四つどころじゃない。小さな変化を愛でる朝

2階の窓からは、富士山から南アルプスまでパノラマで見渡せる髙橋家。吹き抜けに吊られた鳥のモビールが悠々と羽ばたきながら揺れています。

「目覚めて窓に目をやると、虹色に輝く朝焼けが見えます。5月は野鳥の声が目覚まし代わり。東京にいた頃には想像もできなかった暮らしの景色に、朝起きるのが楽しみになりました。昨夜遅くまで遊んで寝ている友達がいたら、その時だけでも叩き起こして見せます(笑)」と夏子さん。

「朝、ぐるりと庭を歩くんです。そうすると自然と五感が働いて、初霜が降りた日もフキノトウの第一号が出た日もわかる。それまでニュースで見て知っていたような季節の変わり目が、手に取るようにわかるようになりました。例えば一言で秋といっても、栗が実る秋と金木犀の花が咲く秋は違っていて、そこに合わせて暮らしの手仕事も変わっていく。四季は四つどころではなくて、その日その時、グラデーションを描きながら変わっていく。そんなことを全身で感じられることが嬉しい」と陽太さん。

暮らしの中で見た景色をいつかお菓子にしてみたい

陽太さんはこの冬、ワイナリー直営のぶどう農家に転職。プロの栽培技術を習得し、いつか自分達の暮らしでもぶどうを育ててみたいそうです。夏子さんは、新卒から老舗の和菓子屋さんに勤務。「大好きなこの地域と自然の魅力を、食を通じて伝えていくのが私の仕事です。この家と暮らしの中で見た景色を、いつかお菓子づくりに活かせたらこんなに嬉しいことはありません」と未来の希望を語ります。

「実は少し前、今から家づくりが始まるというタイミングで、二人揃って交通事故に遭いました。幸い怪我はなく九死に一生を得ましたが、すごく落ち込んでしまって。一度は家づくりを諦めかけたのですが、乗り越えられる日が来ると信じて一歩を踏み出せたこと、今は本当によかったと思っています」

まだ若いからと足踏みしていたら、いつか後悔する日が来るかもしれない。そのことが確信に変わり、陽太さんと夏子さんは今まで以上に「こうでありたい」にまっすぐ向き合うようになりました。

「地方移住に興味はあっても、まだ若いからと制限をかけている人がいたら背中を押してあげたい。これからの暮らしに夢とビジョンを持って行動していく同世代の人が増えたら、大好きなこの地域がもっと面白くなると思うから。いつか私たちがその先駆者として、誰かの力になれる日が来たらいいな」

子どもの頃からの憧れを、ひたむきな行動力で生きる力に変えていく陽太さんと夏子さん。

地図に描いた暮らしの旅は、まだ始まったばかりです。

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