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静かなる侵略者?――荒れた竹林がもたらす環境への影響
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日本の風景にしっとりと馴染む、しなやかで瑞々しい竹林。 風にそよぐ葉音は、まるで昔話のような穏やかさと郷愁を感じさせ、多くの人々にとって心を癒す存在でもありました。

▲ 風に揺れる美しい竹林。その静けさの裏に潜む課題とは?
けれど、その美しい竹林が、近年では“静かなる侵略者”と呼ばれるほど、環境に深刻な影響を与えていることをご存じでしょうか?
放置された竹林の現状
かつて、竹は私たちの暮らしに欠かせない素材でした。ざるや箸、籠や垣根、そして旬の味覚であるタケノコまで、生活のあらゆる場面に登場していました。 しかし、昭和後期以降、プラスチックの台頭や安価な外国産資材の輸入増加により、国産の竹材の需要は激減。
人の手が入らなくなった竹林は、その驚異的な繁殖力をもって周囲の森や農地を侵食し、いつしかコントロール不能な状態へと変貌していきました。 竹林が広がるスピードは想像以上で、1年に数メートル単位で拡大することも珍しくありません。

▲ 手入れが行き届かず、周囲の自然や農地へと広がる放置竹林。
生態系への影響
竹の最大の特徴は、地下茎によって広がること。 この特性により、一度根付いた竹は半ば自動的にその領域を拡大していきます。 問題は、そのスピードと強さです。竹が密集すると、地面に光が届かず、本来その土地に根づいていた植物が育たなくなります。
さらには、その植物をエサや住処としていた昆虫や鳥、小動物たちも姿を消し、生物多様性が著しく損なわれていくのです。 ひとつの竹林の拡大が、地域全体の自然バランスを崩す引き金となっていることは、見逃せない現実です。

▲ 密集した竹のせいで光が届かず、植物の育たない林床。
景観の変化と災害リスク
四季折々の彩りを見せる里山の風景は、多種多様な植物や動物の営みによって形づくられてきました。 しかし、竹が一帯を覆い尽くすと、その風景は単調な緑一色となり、かつての美しさと多様性は失われてしまいます。
また、竹は木に比べて根が浅く、土壌の保持力が弱いという特性があります。 そのため、大雨や台風、地震などの自然災害が発生した際、竹林が広がっている地域では土砂崩れや地滑りのリスクが高まるとされています。 見た目の美しさとは裏腹に、災害の引き金となる可能性を秘めているのです。

▲ 竹林の広がる斜面で発生した土砂災害の現場。
私たちにできること――竹と共生するために
では、この放置竹林の問題に、私たちはどのように向き合えばよいのでしょうか? 答えはシンプルです。「無関心」をやめて、「関わる」こと。
具体的には、竹を資源として積極的に活用することが鍵となります。 例えば、春の味覚としてタケノコを楽しむ、竹製の製品(箸や器、ストローなど)を選ぶ、地元で行われている竹林整備活動に参加してみるなど、小さな一歩が大きな変化を生むきっかけになります。

▲ 地域で行われている竹林整備。人の手が自然と未来を守る第一歩に。
また、竹炭や竹繊維など、竹の新たな活用方法も注目されています。 エコ素材として再評価されている竹は、実はとてもポテンシャルの高い“資源”なのです。
おわりに
荒れた竹林は、ただの自然の一部ではありません。 それは人がその土地に手をかけなくなった“サイン”であり、同時に「もう一度関わってほしい」という自然からの無言の呼びかけでもあります。
放っておけば侵略者となり、関われば豊かな恵みを与えてくれる。 そんな二面性を持つ竹林と、どう向き合うかは、私たち一人ひとりの意識と行動にかかっています。

▲ 手入れされた竹林を歩く親子。未来の自然との共生を象徴する光景。
次の世代に、美しい自然と調和のとれた暮らしを受け継ぐためにも。 今こそ、竹と共生する未来を、共に描いていきましょう。